[ ここにある君 ]






地域のお天気です。夕刻よりにわか雨になるでしょう。
折りたたみ傘をお忘れなきようお出かけ下さい





何となく雲行きが奇しいように見えた。だが、アタシは自信を持って晴れ女だ。
お祭り事に関していえば、一度も雨を体感したことがない。

花見をしようと決めた日は満開で前後に雨に振られたことはないし、小中高校の運動会は一度たりとも雨にはならなかった。そういえば、あたしの行けなかった旅行だの行楽だのは基本的に雨又は吹雪で、締め切りで行けなかった横丁のスキー旅行に至っては長野まで行ったにも関わらず吹雪で缶詰状態。何することもなく、げっそりした表情で帰ってきた三爺を見ながらザマァミロとこっそりおもったものだ。

つまり、アタシが晴れを呼んでいるのだ。
もっと感謝しなさい。 もっと崇めなさい。




にも関わらず。


「ちょっと何なのよ!」

突然雲行きは急転。
アレヨという間もない勢いでバケツをひっくり返したみたいな雨。

「そりゃ、にわか雨ってやつでしょ」

近くの本屋に買い出しの為、つまり荷物要員として拉致っていた平井が、さも当然みたいな顔で正しい事を言いくさった。そんなのわかっとるわい!!

「残念だったね、これで本屋さんはいけないなぁ〜」

たしかに、てっぺんから爪先までぐっぞりの格好では入店お断りされても文句は言えない。帰宅するしかなさそうだ。

而して、

「なんで、傘持っていくって事考え付かなかったの」
「だって、お天気予報なんか見てないもん」
「あんた、そういう時くらいしか役に立たないんだから雨くらい止ませなさいよ」
「幽霊って、シガナイ生き物だからそんな神様みたいなこと出来るわけないじゃない」
「あぁあ、折角横丁から出たのに…」
「それって、引きこもり」
「だから、一挙に購入しようと思ってたんじゃない。あれよ、これよとみてたらあっという間に冊数なんか嵩むでしょ。そこで、アンタの出番じゃない」
「大体、冊数が多いならオンラインで届けてもらえばいいじゃない」
「何馬鹿言ってんの。紙で触らなきゃわかんないでしょ。大体、アタシオンラインで買い物すんの嫌いなのよ。ってか、いつオンラインなんてハイカラな言葉覚えたのよ」
「ハイカラって…」

とか言ってる前を、傘をさした学生が通過していく。あの形状を推察すると折り畳み傘とみた。そんな時代もあったものかとちょっと懐かしい。

「ちょっと、アンタ。ひとっ走り、傘取ってきたりとかしない?」
「どーせココまで濡れてるんなら、取ってきたって代わりがないように思うんだけどな…」

あぁあ、止まないねと空を見上げる平井のよこで、濡れねずみみたいな私。変な光景だ。なんだっけ、書生さんみたいな格好だ。あの服は、自前なんだろうか?だったら、違う服にも着替えられたりするんだろうか。一度考え始めると、とめどなく変なことが浮かぶ。大体、幽霊なんてものは定型じゃない。絹代ちゃんなんか、形がなかった。でも、なんでかちゃんと、形を取ってるのが幽霊たちだ。あの姿も、生前のものだと考えてるけど考えてみたら違うのかもしれない。それにしても、洋服の平井ってのもなんか違和感を感じる。変だ。やっぱり、あれでいいや。平井って言えば、今思い出したけれど幽霊だったんだっけ。実体がない。つまり、商店街の閉店したらしい店の前で平井と喧嘩してたのは、見えない人にはあたしが向こう側に逝ってしまわれた方にしか見えないに違いない。それに、今思い当たってぞっとした。雨の性で今、往来に人はいないが、さっき折りたたみを持った学生が去り際、ぎょっとした顔で逃げるみたいに走っていったのを思い出した…平井が見えて驚いたのか、それとも………………

「大体、なんで、傘なんか欲しいのさ。困んないじゃないか」
「傘なきゃ濡れるでしょ!アンタだって困るでしょ?!」

何わけのわかんないことを言ってるのかと思った。いらいらして、平井を殴ろうと体を向けるとそこには、驚いた顔の平井。それから、あははっと笑った。あたしは、何か変なことをいったろうか?そのまま、軒下からひょいと雨の中に移った平井はやっぱり、笑っていた。



「濡れないよ」


平井にとってそれは何でもない事実に違いない。

馬鹿みたいに降る雨の中で平井だけ無視されたみたいに雨粒は奴に当たらなかった。
浮いているから泥も跳ねないし、実体が無いから服も濡れない。
さっき、からあたしの髪の毛からはぽたぽた雨が滴っているというのに。
あたしの、体は寒くてカタカタいいそうなのに。
平井は、何もないみたいに。いつもみたいに、ふわふわ地面から浮いていた。


「天気予報とか関係ないでしょ?」

ニコニコ笑いながらそんなことをいった。確かにその通りだった。
ムカつくぐらいの正論だ。でも

「だから、」
「だからって!あんたが天気の確認を怠っていいわけないでしょ!洗濯物どうする気よ!!」
しまったと、顔が歪む。今日は出掛けに洗濯物を干したのだ。取り込むのは平井の仕事だ。今頃軒先でぐっぞり濡れた衣料品が悲しく揺れているにちがいない。

「…女性ものの下着を僕に取り込ませるの未だにどうかと思うんだけどな…」
「あんた、家に居たいんでしょ?労働は必須よ。必須。ほら、先に戻って洗濯機回しなおし!」
「先に戻るの??!」
「あったり前でしょ!頼んだわよ!!!」

ちぇー、とかいいながら、平井がぴよぴよ雨の中を飛んでいく。
雨は相変わらず平井を無視して降っている。





すっかり忘れていた。やつが、幽霊だってことを。
そして、なんだか、あいつを無視した雨に無性に腹が立った。

「こんな大雨…すぐに止むって。にわか雨でしょ」

あたしは、晴れ女なのだから。こんな雨は、すぐ止むはずだ。
世界はもっと、あたしを崇めていい。


「雨なんか降らない」



だって、あいつは、ここにいるんだから。
だから、あたしは、傘を持ち歩かないことを決めた。




地域のお天気です。夕刻よりにわか雨になるでしょう。
折りたたみ傘をお忘れなきようお出かけ下さい





とつぜん、東子さん登場。なかなか、ドリームしました。
洋服の平井とかちょっとみたい。まぁ、あれも一種の洋服だがな。
ふんとに、ご期待に添えられず申し訳ない。でも、己が道を行きます。
UP:2005/10/21








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